三人とも綺麗な洋服を着ており、私に話しかけてくるとは思わなかったのでビックリしていると、もう一人の男性がさらに私にこのように言いました。
「すみません。貴方にお願いがあります。私の父が入院してしまいました。父に会ってやってもらえませんか。渡したいものがあると言っていました。何としてでもお願いを聞いてもらえるまでお願いしてくるように言われています。また、いつも、貴方に荷物を置きに行っているものだと伝えるように。とのことでした。」
私はハッとしました。
会いに行くのはいいが、この汚い格好では病院には入れないというとマンションを持っているらしく、一部屋空けておいたとのことで、そこでお風呂に入るようにお願いされ、また着替えも全部用意させているとのことでした。
何が何だか分からないままに、その部屋に案内され、温かいシャワーを浴び、戦後初めてお風呂に入りました。
戦後初めてのお風呂は全て用意してくれていました。
何度も身体を洗いました。なぜか涙が止まりませんでした。
その翌日、その人に会いに昨日の三人に連れられて病院にいきました。
病室に入ると、身体を少し起こしているその人が手招きをしていました。
私は何から話したらよいか、何を言ったらいいのか分からないまま、その人のベッドの横に立ちました。
座るように促されたので、その人の顔があるすぐ横に座りました。
「この有り様で、行けなくなってしまったので今回は申し訳ないがお呼びしました。」
何も言葉が出てきませんでした。
「私はしばらく入院することになりそうです。もうこの年だから。」
「それで、貴方に渡しておかなければならないものがあるのです。」
「これです。」
と言って私に綺麗な額縁を渡してきました。
小さいものでしたが、その中には言葉が書かれた紙がありました。
その紙に書かれていたのが、住所とそれから私の名前の他は、「12歳」と書かれていました。
「あなたのお兄さんから渡されたものです。あなたが死にそうになっていたら渡してくれと、それまでは絶対に渡さないでくれと頼まれました。お互いに約束を持っていたのです。いつ死ぬか分からなかったから。だから、まだ渡さないつもりでした。でも、やっぱりもう渡そうと思ったのです。」
それ以上のことを自ら話そうとはしませんでした。
すぐに私も事情がつかめました。兄の戦友だったのかと。
「私はあなたのお兄さんのおかげで生き残ったのです。」
私はその場で泣き崩れました。
「ありがとう。ありがとうございます。」
その人にはその言葉しか出てきませんでした。
65年、その人は私に尽くしたのです。
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